カタストロフィ


「お義姉様(ねえさま)、ダニエル兄様へのクリスマスプレゼントはどうなさるの?」

「メアリー様、まだそう呼ぶには早くってよ。ちゃんと先生とお呼びなさい」


そう嗜めはしたものの、ユーニスは笑顔を隠せなかった。
家族も同然と思っていたこの愛らしい教え子が、あと半年ほどで本当の家族になるのである。

「クリスマスプレゼントならもう手配済みよ。昨日屋敷に届いたから、あとは包装するだけ」

「何になさったの?」

「……秘密。実用品とだけ言っておくわ」

プレゼントの中身と選んだ理由を聞かれたくなかったユーニスは、曖昧に微笑んだ。

クリスマスを過ごした後、ダニエルはミラノに戻ることになった。
ユーニスを花嫁に迎えるにあたりダニエルは一度ミラノに帰り、仕事の引き継ぎを済ませ、新居の用意をしなければならないのだ。

演奏旅行は成功したが、家庭を持つ以上は安定した収入が欲しいと言って、ダニエルはスカラ座のコンサートマスターを辞任するのを見送った。
まだ本決まりではないが、ミラノ音楽院の特任教授に推薦されたのもあり、しばらくの間はイタリアを活動拠点とするらしい。

「あらあら、二人の世界に入ってしまわれたわ。ふふふ、来年が楽しみですね、先生!」

からかい混じりの笑い声に顔を赤らめながらも、ユーニスは同意した。

「ええ。5月にはメアリー様の社交界デビューがあり、6月には結婚式。挙式後はすぐにイタリアへ引っ越して、8月に新婚旅行。来年は忙しくなるわ」

「諸々の準備に忙しいから、ダニエル兄様がいなくても寂しくないわね」

「そうね」


確かに寂しくはない。
だが、一度気持ちを通わせてしまうと、離れるたびにどうしようもなくその存在が恋しくなる。

(私がなかなかダニエルの愛を受け入れられなかったのは、この恋しさや切なさが怖かったからかもしれない)

たった数ヶ月、それも結婚準備のために離れるのだと頭ではわかっていても、一緒に居られるのはあと数日だけだと落ち込みそうだ。
だが幸いなことに落ち込む暇はない。


「ウエディングドレス、今から制作だとかなりギリギリになるわ。ヴェールやサムシングフォーも揃えないといけないし、そうそう、メアリー様に着ていただくドレスも選ばないと」

「教会はもう予約したのでしょう?披露宴はどうなさるの?」

「うーん、やらないかもしれないわ。ダニエルは三男だし、基本的にはイタリアにいるのだからこの国の貴族たちに顔を売る必要性がないから。でももしやるとすれば、シェフィールド家のタウンハウスかしら?」


その後、ウエディングドレスの制作をどこのデザイナー、工房に任せるか、デザインはどうするかをメアリーと真剣に話し合っていたら、いつの間にか午前中が終わっていた。
楽しくはあったが、やらなければならない事に一切手をつけていないことに気づき、ユーニスはそれとなくメアリーを部屋から出したのであった。

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