カタストロフィ



クリスマスイヴの日、ユーニスはいつも着ている濃紺のドレスを仕舞い込み、新しいドレスを卸した。
モスグリーンの生地に銀糸で刺繍を施した、最近流行しているバッスルスタイルのドレスである。
伯爵家の面々が着ているドレスに比べればややシンプルになってしまうが、なるべく良い生地を買って仕立てた為見劣りはしない出来だ。

アクセサリーは、ダニエルから贈られたダイヤモンドと真珠のネックレスとブレスレット、イヤリングを身につけた。
メイドに髪を結ってもらい薄く化粧を施せば、
どこからどう見ても優雅な貴婦人の出来上がりである。

シェフィールド家のクリスマスパーティーには毎年参加しているが、今年は使用人たちが集まる食堂ではなく、伯爵一家が集まる大広間に顔を出す。
ダニエルに恥をかかせないよう精一杯装ったつもりだが、集合場所に近づくにつれユーニスは不安になってきた。


(本当にこの生地で良かったかしら?お店で見た時は素敵な色だと思ったけれど、クリスマスパーティー用にしては地味だったかもしれない。ああでも、歳を考えたらピンクとかパステルブルーみたいな色は着れないわ!それこそダニエルに恥をかかせてしまうし、もともと淡い色は似合わないもの。きっとこれで良かったのよ)


どんどん顔が強張っていくのを自覚し、ユーニスは意識して何度も深呼吸した。
大広間はもうすぐそこだ。


「ユーニス!」


背後から急に声をかけられ、ユーニスは咄嗟に振り向いた。
いつになくかしこまった格好のダニエルに、思わず相好を崩す。

「素敵よ、よく似合っているわ」

いまやすっかりユーニスを見下ろすくらいに背が高くなったダニエルは、細身ではあるものの男性らしい体つきになり、燕尾服がよく似合う紳士に成長した。
中性的な美貌は幼い頃から変わらないが、普段は何もしていない柔らかな金髪を整髪剤でセットしただけで、不思議と男らしく見える。

「君のドレスも素敵だよ。仕立てたデザイナーはなかなかセンスが良い。レースを控えめにしてドレープを多くするなんて、わかっているじゃないか。生地の色と質感も上品で、よく似合っている」

褒めつつもしっかり仕上がりを確認し満足気に頷くダニエルを見て、ようやく心から安心出来た。
長年上質な物に囲まれて育った彼からの褒め言葉ほど心強いものはない。

「さあ、お手をどうぞ。愛しの婚約者(フィアンセ)殿」

ふざけながらエスコートを申し出たダニエルにくすくす笑い、ユーニスは遠慮なく手を重ねた。
いつの間にか不安は消えている。
大広間の扉が開き、シェフィールド家の面々を目にしても、緊張はしたが怖くはなかった。

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