カタストロフィ
ダニエルが半ば強引にユーニスの純潔を散らしたことを認知しているのは、シェフィールド家の家長であるジェイコブとその妻ジェーンの二人だけであった。
愛する息子の結婚相手が歳の離れた元女家庭教師であることに当初伯爵夫妻は難色を示していたが、二人ともユーニスの性格を知っていたため表立って反対はしなかった。
軽率さとは無縁の彼女が体を許したということは、それだけの覚悟があると見なされたのだ。
ダニエルが急に結婚すると言い出した時、その意味がメアリーにはわからなくとも長兄、次兄はしっかりわかったらしい。
クリスマスパーティーの間、二人とも満面の笑みでダニエルをからかい続けた。
特に次兄マーカスは、いまだ結婚はおろか婚約者すらいない為絡み方が執拗であった。
「あーあ、お前が羨ましいよ。顔が良くって社交界でも顔が広くて、おまけにこんなに綺麗な人と結婚だなんて!僕には奥さんどころか婚約者すらいないというのに」
「兄さん、エッグノック飲み過ぎですよ。それにユーニスをジロジロ見るのもやめてください。不快です」
「うわぁ、こいつ一丁前に嫉妬なんかしてるぞ!」
あの小さかったダニエルが、と呟いたのは一体誰だったのか。
それまで賑わっていた大広間は、一瞬にして静まり返った。
幼い頃の受難や問題児ぶりを思い出したのか、レイモンドの妻であるエレノアとメアリー以外は皆しんみりとした表情になった。
「父上、母上、僕に自由な人生を歩ませてくださりありがとうございました。愛情、時間、お金、何一つ惜しむことなく与えてくださったおかげで、僕は大人になれました。心から感謝しています」
唐突なダニエルの言葉に驚き、心を打たれたのか、ジェーンはハンカチで目元をおさえている。
「兄さんたちにも感謝している。二人がいるおかげで僕は自由に生きられるんだ。だから、何かあったらいつでも頼って欲しい。メアリーも、イングランドで良い男が見つからなかったらイタリアにおいで。僕が相応しい相手を見立ててやろう」
最後こそ冗談めかしていたが、言葉に万感の思いがこもっていたのはその場にいた全員に伝わった。
暖かく柔らかな空気のまま、時計の針が進んでいく。
いつになく和やかに、そして楽しく、シェフィールド家のクリスマスイヴは過ぎて行った。