カタストロフィ

暗雲



ここ数日、目が覚めるたびにユーニスは幸せな気分になる。
起きた瞬間から視界の端にウエディングドレスが目に入るのだ。

ドレープを多用し、金糸と銀糸で煌びやかな刺繍を施したプリンセスラインのウエディングドレスに、淡雪のように繊細なレースのヴェール、当日履く靴までが所狭しと壁際にある。
もう良い年なのだからもう少し落ち着いたデザインにしたいと訴えたものの、ダニエルは頑としてプリンセスラインのドレスを譲らなかった。

普段はユーニスの意見を尊重してくれるがここぞという時は折れない彼に負け、結局ユーニスはダニエルの希望通りのデザインにした。
結婚後に好きな色に染めて使えるように上手いことリメイクしてあげる、という彼の言葉を信用したのも大きい。


「さて、そろそろ起きないと」


窓を開けて清々しい朝日を浴び、どこからともなく漂ってくる焼き立てのパンの匂いをかぐ。着替えを済ませると呼び鈴を鳴らし、メイドが来るまでの間にユーニスはダニエルからの手紙に目を通した。

ずっと返事をしなかったくせに厚かましいお願いだが寂しいから手紙を送って欲しいと言い、去年のクリスマスプレゼントは万年筆とレターセットを贈った。
言葉もプレゼントのチョイスもダニエルのハートをしっかり射抜けたようで、その日の夜も寝不足になるほど激しく愛された。

それ以来身体は重ねていないが、短期間でしっかりと躾けられたユーニスは、いまや思い出だけで動悸が止まらなくなる。

(もう、朝から何いやらしいこと考えているのよ!それより早く返事を出さなきゃ)

一番新しい手紙には、ダニエルが用意した新居の住所と間取りを細かく書いた見取り図が書いてある。
まだ実物は目にしていないが、これを見る限りではかなり良さそうだ。

返事を書こうと机に向かったその時、やや性急にドアがノックされた。

「どうぞ」

「お義姉様、メアリーです!た、大変よ!!」

返事もそこそこに転がり込んできたメアリーは、見るからに気が動転していた。

「まあメアリー、そんなに慌ててどうしたの?」

「お兄様が」

「え?」

「レイモンドお兄様が、危篤なの!!」


椅子をすすめようとしていたことも忘れて、ユーニスは呆然とその場に立ち尽くした。
ユーニスはまだ知らなかった。

これが、シェフィールド家の凋落の始まりであることを。

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