カタストロフィ
メアリーと共にサロンに着いた時、シェフィールド伯爵夫妻は青白い顔で紅茶をすすっていた。
商談のためにスコットランドへ出向いたレイモンドだが、帰り道で馬車が横転し大怪我を負い意識不明の重体である。
また、道中にはレイモンドの妻、エレノアもいて彼女も危篤である。
サロンに向かう前にこの二点をメアリーから聞き出したユーニスは、冷や汗が止まらなかった。
大丈夫だ、などと安直なことは言えない。
だが、不安を煽るようなことも言いたくない。
結局何も言えずにメアリーに付き添うユーニスに、ジェイコブはある指示を出した。
「ユーニス」
「なんでしょう?お義父様」
結婚が間近であることから、ユーニスの伯爵家の面々に対する呼び方が変わった。
また、自身も名前で呼ばれるようになった。
「マーカスとダニエルに手紙を出せ。至急帰って来るようにと」
レイモンドの死を連想させるその言葉に、ジェーンが金切り声をあげる。
「あなた!なんてことを……!」
「もしものことを考えろ、ジェーン。レイモンドにはいまだ嫡子がいない。いざという時はマーカスに跡を継いでもらわねばならない。それにダニエルは国外だ、早めに呼んでおいた方が良い」
「そうだけれど、何も今そんなこと言わなくても!本当あなたって冷たいわ!」
普段ならヒステリーを起こすジェーンを見ても動じないジェイコブだが、咄嗟に言い返し、メアリーそっちのけで口喧嘩をはじめるあたり、実はそうとう堪えている。
間に割って入ろうか考えるも、息子の一大事に動揺する二人を落ち着かせるのは難しいと判断し、ユーニスはサロンを去った。
そしてマーカスとダニエルに現状を説明する短い手紙を書き、自ら郵便局まで投函しに行った。
ダニエルはともかく、ロンドンの法律事務所に勤めているマーカスはこの手紙を読んだらすぐに帰って来るだろう。
彼が屋敷に戻るのと、レイモンドの容態を知らせる警察からの知らせ、どちらの方が早いのか。
(レイモンドもエレノアもまだ若いわ、大丈夫。きっと助かるはずよ。最近は特に医療が発達しているし、二人とも事故現場からすぐに病院に運ばれたって話しだし、大丈夫)
半ば自分に言い聞かせるが、やはり胸騒ぎはおさまらない。
昼過ぎに屋敷に戻ると、メイドや下男たちにも緊迫感が漂っていた。
今日は大人しくしていよう。
そう決めて、ユーニスは自室には戻らずジェイコブのドアを叩く。
「お義父様、ユーニスです。ただいま戻りました」