ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
その日も仕事を終え、愛しいシャーロットに会うために彼は家路へと急ぎ帰った。
ところが、玄関扉を開けたエスターを待っていたのは、花のように微笑んで迎えてくれるシャーロットではなく、沈痛な面持ちで立つジェラルドだった。

「大変なことになりました」
「……大変な事?」

その言葉を聞いたエスターの目つきが、一瞬にして鋭くなる。

「まさか……シャーロットが攫われたんじゃ……」
「いえ、攫われたりはしておりません。私もダンもいるのです、あり得ません、あり得ませんが……もっと大変かもしれません」
「なに⁈ 」

 とにかく中へ、とジェラルドに連れて行かれたのは居間だった。
入ってきたエスターを、壁にもたれ掛かりながら見たダンが長椅子を指差す。

 長椅子にはドロシーとクレア、その間には少女が本を読んで座っている。
しかし、どこにもシャーロットはいない。
ドロシーとクレアはエスターに気付くと困った様な顔をした。

「お帰りなさいませ、エスター様」

 ドロシーがそう言うと少女が顔を上げた。
どことなく……シャーロットによく似た女の子だ。
きっと彼女が子供の頃はこんな感じだろうと思う……
などと考えていると、ドロシーが少女の肩を抱きながら言った。

「エスター様、この方はシャーロット様です」

「……は?」

 いつもは冷静なエスターもドロシーの言った言葉が理解出来なかった。
そこに居る少女はどう見ても五、六歳だ。それにエスターを見て少し怯えている様に見える。

「さあシャーロット様、この家の主人、エスター様ですよ。ご挨拶をして下さい」

 少女はドロシーを見てコクンと頷くと、長椅子から降りた。エスターの前に立ちスカートを持つとかわいいカーテシーをする。

「はじめましてエスターさま。わたしはシャーロット・ディーバンです。このまえ六才になりました、今日はおまねきありがとうございます」

「シャーロット?」

あまりの事にエスターは目を疑った。

「はい、お父さまとお母さまはわたしを『シャル』とよびます。エスターさまも『シャル』ってよんでください」

ニコッと笑うその顔は、紛れもなく愛しいシャーロットだ。

だが、どうしてこうなった?
声も出ずに立ち尽くすエスター

「エスター様、とりあえずお座り下さい。シャルちゃんも座ってね、お話しますから」

 ドロシーの言葉に「はい」と可愛く返事をしたシャルは長椅子によじ登るようにして座った。
エスターもテーブルを挟んだ場所にある椅子に腰かける。
ジェラルドとダンも座るとクレアが皆にお茶を出した。


 テーブルを囲み皆が席に着くと、エスターの前に一つの箱が置かれた。

「……これ」

 それはエスターが最近見た箱だった。
 今、女性の間で贈り物として人気のある店の箱だ。中には花や蝶、リボンを形取ったカラフルな砂糖が入っている。ついこの間オスカーが、ティナ嬢に買ってきた物を見せて貰っていた。お前もこういうサプライズをした方がいいぞ、と言われたのだ。

 ジェラルドが昼間に起きた事を話た。

 昼を過ぎた頃、第三騎士団のノアという騎士が訪ねてきた。何でもエスターが忘れていった物を届けに来たというのだ、それは隊服だった。
「ああ、着替えを置いていた……けど……」
それともう一つ、従姉妹に頼まれて結婚祝いを持ってきたのだと言った。

「その従姉妹と言うのはシャーロット・バート侯爵令嬢です。エスター様は知っていらっしゃいますか?」

 シャーロット・バート侯爵令嬢……

「マリアナ王女様といつも一緒に居られた方か」
「知っておられましたか」
「なぜ結婚祝いを? 僕はそんな事をして貰うほど親しくは無かったが」
「あちらは、そうは思っておられないのでは?」
「……そうかな?」

 全く興味がない様な話方をするエスターに、その場にいた皆は、少しだけシャーロット・バート侯爵令嬢に同情した。

「お祝いを持ってきて頂いたノア様に、お茶をお出ししました。シャーロット様と私とドロシー、ダンも同席しました。そこでノア様はエスター様の今までのご活躍を話され、シャーロット様はそれをとても嬉しそうに聞いておられました」

「そう……」

「それから、ノア様はバート侯爵様の話をされました。侯爵様が経営している店の商品が今、若い女性の間で人気があるのだと、祝いの品はその商品で、是非開けて見て欲しいと言われました。シャーロット様は箱を開けてご覧になり、とても喜んでおられました」

 それを聞いたエスターは、自分が先に買ってこなかった事を後悔した。( 僕が、彼女を笑顔にしたかった……)

 目の前に座る小さなシャーロットは、真面目に話す大人達を不思議そうな顔で見ている。





「よろしければぜひ持って来た砂糖を入れてみて下さい」と、ノアが言った。

 砂糖には香りが付けてあり、シャーロットは薔薇を象った砂糖を入れ、ドロシーは星の形の物を入れた。甘い物が苦手なジェラルドとダンは入れなかった。

「私も頂いたのです……」
ドロシーはシャルの頭をゆっくりと撫でる。


 それから三十分ほどノアは話をしていたが、もう帰らないと隊長に怒られる、と言って慌てて帰っていった。

「さらに三十分ほど経つと、シャーロット様がお昼寝をされました……いつもの様にエスター様が無理をさせられたのだろう、と私達はさほど気にせずにいたのです」

 チラリ、とジェラルドは冷ややかな目でエスターを見る。

「……そ、そんな毎日疲れさせたりしない。僕は彼女の体の事はちゃんと考えてるし、大切にしてる……昨日も二回しか」
「んんっ!」

 ジェラルドが咳払いをしてエスターの話を止めた。
当事者ではあるが、今は何も覚えていない幼いシャーロットが聞いているのだ。そんな艶めいた話など聞かせられない。
 護衛のダンは「さすが、主人」と目を細めている。

シャルは何の話だろう?と周りの様子を伺っている様だ。


「いつもなら三十分程で起きて来られるのですが、今日は二時間以上お眠りになられていて、おかしいと思いお部屋へ入りました所……この様なお姿になられていました。着ていた服を上掛けの様にして眠っておられたのです」

ドロシーはそう言うと、悲し気にシャーロットを見た。
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