ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

可愛すぎるっ

ちょこんと椅子に座り、微笑みを浮かべている幼くなってしまったシャーロットを、皆は心配そうに見ていた。

「シャーロット様がお目覚めになられてからお話をしましたところ、現在彼女は六歳、どうしてここにいるのかは分からないとの事でした。残念ながらエスター様の事も私達の事も記憶にございません」

「完全に子供のシャーロット様になられている事から、いただいた砂糖に『時戻り草』が入っていたものと思われます」

「『時戻り草』……アレはこの国には無いはずだ、それに砂糖に入っていたのならなぜドロシーは何の変化もないんだ?」

「そこが不思議なのです。砂糖に入っていたのだとすると、シャーロット様だけがなぜ幼くなられたのか分からないのです。それとも薔薇の形の物だけに入れられていたのか……しかしあれを選んだのはシャーロット様ご自身です」


「……シャーロット……」

はあ、と大きなため息とともにテーブルに突っ伏したエスターの頭を、小さな手が撫でた。

「……え」

 顔を上げると、幼いシャーロットが心配そうにエスターを見ている。

「あたま、いたいの? いたいならシャルがないないの歌うたってあげる」

 首を傾げて下からエスターを心配そうに覗き込むシャル。その小さなピンク色の唇を、ちょっと尖らせている仕草が堪らなく可愛く、彼の庇護欲をそそった。

「……くっ……」

エスターは口元を片手で覆いシャルを見つめる。

かっ、可愛すぎるっ……ないないの歌ってなんだ? 僕は聞いた事がない
( ある訳がない。具合が悪くなった事など無いのだから)
それにさっきから自分の事を『シャル』と呼ぶあの声……ぐはっ……かわいいっ……!

小さくなったシャーロットを見て、目尻は下がり頬は赤らんでいる、エスター。
 大変な状況だと云うのに、この屋敷の若き主人は幼くなった妻に悶えているのか……と四人はしばしの間、エスターを白い目で見ていた。

「とにかくですね、持って来た騎士ノアの所へ遣いを出しました」
そうジェラルドが言うと、ダンが手を上げた。

「俺が行って来たんだけどね」

 この屋敷で護衛として働くダンは、二年前まで第一騎士団の副隊長だった。ノアの事も多少は知っていたのだ。

「ノアは何も知らなかった、本当に頼まれて持って来ただけだったようだ。話を聞いて青くなっていたよ、アイツがバート侯爵にすぐ連絡をとると言っていたから、待っていれば何か分かるだろう」


 そうダンが話をした直後、玄関の呼び鈴が鳴った。

 そこにはバート侯爵とシャーロット令嬢、侍女が立っていた。

バート侯爵はエスターを見るや直ぐに頭を下げる。

「申し訳無かったぁ! 娘が貴殿に贈った物は、私の物だったのだ、紛らわしく店の箱に入れていた私が悪かった、本当に申し訳ない!」

「バート侯爵……」

「ノアに聞いたのだ、奥方が娘の贈った砂糖を使った後で子供になってしまわれたと。気付いておられると思うが、あれに入っていたのは『時戻り草』だ」

「やはりそうでしたか」

「元に戻すには『返し草』を煎じ飲ませればよいのだが、用意しておいた返し草が何故か無くなってしまっていて、持ってくる事が出来なかった。今、急いで取りに行かせているが戻ってくるのに七日程かかるのだ」

 玄関前に立つバート侯爵の顔は、嘘をついている様には見えなかった。
バート侯爵はなるべく早く持って帰る様に伝えているので、待っていて欲しいと言ってさらに頭を下げた。

深々と頭を下げ続ける三人に、エスターは「知らなかったのなら仕方ありません。悪意があった訳ではないのですから」と優しく言った。

 するとガバッと頭を上げたバート侯爵は、忙しなく首を横に振る。
「いや、それでは済まない事をしてしまったのだ。元はと言えば娘が贈った物が原因だ、我が娘シャーロットは子供の扱いには慣れている、是非奥方が元の姿に戻る日までお世話をさせて欲しい‼︎ 」

「いや、それは」
必要ないとエスターが断ろうとするが、バート侯爵はシャーロット嬢をドンと押し出して「それでは私の気が済まん! シャーロット、お前は私が戻し草を持って来るまで、しっかりと奥方を助けるのだぞ」と言い、娘と侍女を置いて帰ってしまった。

 恭しく頭を下げ、バート侯爵令嬢は改めて、エスターに挨拶をした。

「エスター様、本当に申し訳ございません。誠心誠意、奥様のお世話をさせて頂きます」

 シャーロット嬢は「お待ち下さい」と制止するジェラルド達を無視して屋敷の中へと入っていく。
その後を大きな鞄を三つも抱えた侍女が入っていった。

 既にバート侯爵の馬車は走り去っている。
時間も遅い、仕方ない今晩は泊めて明日帰って貰おう、とエスターはジェラルドにその旨を伝えた。
ジェラルドはドロシーにそれを伝えると、二人を客間へと案内させた。





 ドロシーは二人を客間へと案内すると、ベッドのシーツを新しいものと取り替えた。替えながら横目で彼女達の持って来た大きな鞄をみる。

……あんなに大量の荷物……連絡を受けてすぐに用意して来たと云うのかしら? まるで前もって出かける事が分かっていたようだわ……
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