ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

それでも

「まあ!シャル様、お父様を呼び捨てにしてはなりません」
 
 シャルに向けて侍女が言った言葉を、エスターは冷酷な視線で止めた。

「シャルが僕をどう呼ぼうと構わない、彼女は僕の妻なんだ、それに僕は父親ではない」

冷たく低いエスターの声に、侍女はひっと息を呑んだ。
こちらから問いかけなければ、話が出来るはずはなかったのだ。

「……どうして⁈ お茶は……薬は効いていないの⁈ 」
そんな筈は無い、と入れたお茶を確かめている。

「薬? ああ、このお茶に入っているヤツか」

 まだお茶の残るカップを手に取ると、クッと全てを飲み干した。
喉の動きを見ていたシャーロット令嬢と侍女は、ふっと笑みを浮かべる。
今度こそ、そう思っていたのだろう。

カップを置くと、エスターはスッと立ち上がり、二人を見下ろした。彼の青い目は、見るものを凍てつかせる様な鋭い光を放っている。

「竜獣人に、こんな薬は効かない」

それを聞いた二人は唖然とした。

「そんな……でも……他の者は」

エスターがジェラルド達を見れば、皆はニコリと笑みを浮かべていた。
「効いているんじゃない? 飲んでいれば」
皆のお茶は少しも減ってはいなかった。はじめから誰も( エスター以外は )飲んでいなかったのだ。
< 111 / 145 >

この作品をシェア

pagetop