ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
シャーロット令嬢と侍女は、目を丸くして固まっていた。
「どうして? 皆飲んでいるように見えたのに……」
シャーロット令嬢は分からないと首を傾げている。

「僕はねシャーロット・バート侯爵令嬢、ずっとあなたに嫌われていると思っていたんだ。けれど、違うと皆が言うんだよ」

はっ?とシャーロット令嬢は驚き、叫んだ。

「きっ嫌いだなんて! 逆ですわっ、私はずっと貴方をお慕いしていましたのにっ!」

「うん、そうらしいね」
エスターは冷たく言い放つ。

「今だって……私は貴方が好きなんです。シャル様だって私に母になって欲しいと言っておられますし」
「君は何を言っているの?」
「だから……」
「それはシャルの本当の言葉じゃない、君達が暗示をかけたんだろう?」

エスターはシャルの側に行き、片腕に抱き抱える。
彼女の柔らかな髪を梳き、愛おしそうに見つめた。

「僕の大切な人に、変な暗示をかけないで欲しいな」

そう言うと、何かを呟いてシャルの目元にキスを落とす。途端にシャルは表情を取り戻した。

「エスター……」
シャルの声を聞いたエスターは、安心したように微笑む。

「もし、彼女が本当にこのままの姿がいいと言うのならかまわないけれど、それでも僕が君を好きになる事はない」

「そんな事……男性なら私に惹かれないはずはありません!」
自信を持ち言い切ったシャーロット令嬢の横で、侍女も大きく頷いていた。

椅子に座っていたダンが、令嬢を見てうーん、と首を傾げる。
「……そんなの好みの問題だろ? 俺はあんまり胸の大きい女は好みじゃないんだよな、それより脚だな。スラリとした細すぎず、太すぎない太腿から尻にかけてのラインがたまら」
ドンッ! 話の途中で、ダンの脇腹にクレアの拳が入った。
「ふぐっ……クレア……」
「あなたは黙っていて」
「はい……」


 そんなやり取りを見た後で、エスターはバート侯爵令嬢に冷たい目を向けた。

「シャーロット・バート侯爵令嬢は、僕と結婚したいとそれだけの為にこんな事をしたのかな」
「…………」

令嬢はエスターを見つめたまま何も語らない。

「実はね、昼に『返し草』は届けられたんだ。君の父上、バート侯爵がね、何度も頭を下げて謝られた。君の部屋に『返し草』が隠してあったと言われてね、砂糖を贈ったのも分かった上でやった事だろうと泣いておられた」

「お父様が……泣いて?」

信じられない、とシャーロット令嬢は目を見開いて首を振る。

「知っていたかな?『時戻り草』は本来高齢の者が使うんだ。その使用量によっても何歳戻るか変わる。今回は十一歳も戻った、これがもし、彼女の歳以上の量だったらどうなっていたと思う?」

エスターは低く冷たい声で令嬢に聞いた。

「……さあ、赤ん坊にでもなるのかしら」

 不貞腐れた様に言ったシャーロット令嬢と侍女に、エスターは射殺すような視線をむける。

「そうだよ」

 初めて聞いた彼の怒声に、シャーロット令嬢と侍女は凍ったように動けなくなった。

「魔獣の出るこの国で、これを使われたらどうなるかわからないのか? 何も知らず服用した後外に出て赤ん坊にでもなってみろ、運良く助けてもらえればいいが、それでなければ人に攫われ売られるか、魔獣に食い殺されるかだ。たまたまシャーロットは家の中で子供になったが、それでもだ!危険がないとは言えないんだぞ!」

今更ながら知った事に令嬢は狼狽え、首を横に振りながらガタガタと震えた。

「そんなの……これは……違う、これを考えたのは侍女だものっ! 私ではないわ、私は悪くないっ!」

「君も共犯だろう!人のせいばかりにするな!」

シャルを抱いたまま声を荒げるエスターを、シャーロット令嬢は潤んだ瞳で見つめる。


「……だって」

茜色の目から一筋の涙が溢れ落ちた。
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