不遇な転生王女は難攻不落なカタブツ公爵様の花嫁になりました
ソフィアは緩慢(かんまん)な動作でぐるりと居間の中を見渡した。

荷物といっても、荷物はほとんどない。欠けた食器に、着古した服。

そんなものを持っていこうとしたら、このお金持ちそうな男は怒るだろうか。

ソフィアはちょっと考えて、ひとつだけ思い出した。

母とふたりで使っていた寝室へ向かって、母が大切にしていたネックレスを持ってくる。

母はお洒落(しゃれ)はしなかったけれど、このネックレスだけは大切にしていた。ソフィアの瞳と同じエメラルド色をした石のネックレスだ。びっくりするほど大きな石なので、イミテーションだろうが、それでも綺麗(きれい)なネックレスだった。

ソフィアが持ってきたネックレスにランドールは目を丸くして、それを見せてくれと言った。

イミテーションなんて金持ちのランドールが欲しがるとも思えなかったので素直に差し出せば、ランドールは石ではなくその台座の裏を確かめた。

「なるほど、国庫から消えていたのはこのせいだったのか。売られたらどうするつもりだったんだ、陛下……」

「え?」

「いや、なんでもない。これは大切に……できればしばらくの間は人目に触れないところに持っておけ」

「あ、はい」

イミテーションのネックレスを金持ちの男が大切にしろと言うのは不思議だったが、もとより母の形見だ、大切にするに決まっている。

「それで、持っていくものはそれだけか?」

「……あとは、欠けた食器くらいしかないので」

「そうか」

ランドールはちらりと口をつけなかったコップを見やった。そして、なにを思ったか、おもむろにコップを手にすると、中身を一気に飲み干した。
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