アンドロイド・ニューワールドⅡ
本来なら、戦闘モードへの移行は、第4局の許可がなければ出来ませんが。

非常事態に限り、一時的なセーフティの解除のみであれば、私の独断で行うことが出来ます。

現在は、セーフティを解除するに値する非常時です。

何せ、私の友人である奏さんが、テディベアに侮辱されたのです。

友人として、仇を討つのは当然です。

『Neo Sanctus Floralia』の教義にもあります。

一人でも仲間を傷つけられたら、それは全員が受けた傷だと思え、と。

よって私は、奏さんの仇を討ちます。

全力を以て、です。

「『Neo Sanctus Floralia』第4局、Sクラス1027番『ヘレナ』、もとい、久露花瑠璃華。一時的に通常モードを解除、戦闘モードに移行します」

「え、えーと…瑠璃華さん?あのー…」

と、奏さんが何か言っている声が聞こえましたが。

現在の私は戦闘モードに移行しているので、余計な雑音は、自動的にシャットアウトしています。

「ターゲット…ロックオン」

と、私はチャチなライフルを構えました。

「…うん。無理しないでね瑠璃華さん…」

「…ファイア」

と、私は引き金を引きました。

3発、連続でテディベアの眉間に、寸分の狂いなく撃ち込みました。

3発、共に目標地点に着弾を確認。

射的屋のお兄さんが、唖然としているうちに。

眉間を立て続けに撃ち抜かれ、ぐらり、と体勢を崩したテディベアの巨体が。

そのまま、景品棚から落下しました。

…私の、勝ちですね。

「…ターゲットの沈黙を確認。戦闘モードから、通常モードに移行します」

と、勝利を確信した私は、通常モードに戻りました。

これには、射的屋のお兄さんだけではなく。

奏さんも、ポカンとしていました。

「どうですか、奏さん。あなたの仇は撃ちました」

「え、あ…す、凄いね…!?」

と、奏さんは呆然として呟きました。

お褒めの言葉、ありがとうございます。

友人に褒められて、大変光栄ですが。

「この程度は、『新世界アンドロイド』なら容易いことです」

と、私は答えました。

この程度の狙撃なら、Sクラスでなくても、Bクラスの『新世界アンドロイド』でも容易いでしょう。

「ま、毎度あり…」

と、射的屋のお兄さんは、呆然としながら、テディベアを渡してきました。

戦利品ですか。

「ありがとうございます。では、こちらは奏さんに譲渡します」

「え、な、何で俺?」

「?それは奏さんの獲物でしょう?」

と、私は聞きました。

「そ、それは…最初に狙ったのは、確かに俺だけど。でも撃ち落としたのは瑠璃華さんだし…それにテディベアなんだから、やっぱり女の子がもらう方が…」

と、奏さんは言いました。

やはりハンターとして、とどめを刺した者が、獲物を持ち帰ることが出来る、という奏さんの気遣いですね。

「お気遣いありがとうございます。しかし、お気になさらず。その獲物は、奏さんに差し上げます」

「え、えぇ…?…獲物って…」

「私は、射的を経験出来ただけで充分です。その獲物は、奏さんが煮るなり焼くなり、好きにしてください」

「…煮ないし、焼かないよ…」

「それでは、次の屋台に行きましょう。まだまだ、興味深いものがたくさんありますね」

「う、うん…」

と、奏さんは諦めたように、獲物のテディベアを膝の上に置きました。
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