アンドロイド・ニューワールドⅡ
「このような、チャチなハサミ一本で、桃と戦うとは…。人間の楽観的思考に、私は絶望しています」

「俺はむしろ、瑠璃華さんの過剰過ぎる危機管理能力の方に絶望してるよ」

「しっ、静かにしてください奏さん。敵が、何処かに潜んでいるかもしれません」

と、私は言いました。

戦いの場が、水辺ではなかったのは想定外でしたが。

私は、どのような状況にも、臨機応変に対応出来る『新世界アンドロイド』です。

木々の生い茂る、さながらジャングルのようなこの戦場でも、見事奏さんを守りながら戦ってみせましょう。

ジャングル戦において、最も警戒すべきなのは、やはり敵のゲリラ戦法ですね。

「油断しないでください、奏さん。敵は、かの凶暴な鬼を倒した男です。気を抜いたら、いつ背中から襲い掛かってくるか、」

「そっかー大変だね。あ、ほら向こう、たくさん成ってるよ」

と、奏さんは棒読みで言いながら、車椅子を押して行ってしまいました。

「お待ちください奏さん。迂闊です」

と、私は言いました。

奏さんを追いかけた先には。

白く薄い紙に包まれた、ピンク色の桃が、たわわに実っていました。

…。

…案外、小さいですね。

「…まだ未成熟の桃なのでしょうか?」

「いや、充分熟してるよ…。これが桃の完成形だよ」

と、奏さんは言いました。

なんと。この貧弱な姿が、桃の真の姿だと言うのですか。

「桃とは、もっと巨大な…恐竜の卵のようなものなのでは…?」

「うん…。瑠璃華さんはあれだね。本を読むべきだと思うよ。多分あるでしょ、あのシリーズ…。『猿でも分かる!桃』とか」

と、奏さんは言いました。

そのような本が存在するのでしょうか。

気になるので、ちょっと脳内で検索してみます。

…はい。

「よく分かりましたね、奏さん。あります」

「冗談で言ったつもりなのに…本当にあるんだ…」

と、奏さんは呟きました。

興味深いですね、この本。

遠足から帰ったら、探して読んでみましょう。
< 461 / 467 >

この作品をシェア

pagetop