望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う

　やはり黒い豹だった。瞳は赤く、毛並みは艶々としていて。だけど、どこか柔らかい気配を纏っている。

　カレンはその場にしゃがみ込んだ。その豹の顔をじっくりと見たかった。力強く光る瞳の奥に灯る優しさが滲んで見えたから。
　もう一度、それと目が合った。
　カレンは微笑み、右手を差し出すとそれの頭をゆっくりと撫で始めた。豹は気持ちが良いのか、目を細め、顔を上げている。まるで猫のように。あまりにも可愛らしくて、カレンはもっとそれとの距離を詰める。

「奥様？　それが怖くはないのですか？」
　メアリーはおずおずと尋ねた。だが、その問いもどこかぎこちないようにも聞こえた。

「ええ。怖くはありません。とてもかわいいもの。メアリー、あなたはこの子が怖い？」

「いいえ、私は大丈夫です。私のことは心配なさらないでください」