望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
 ふっとレイモンドが鼻で笑ったのは、彼なりの冗談と思いやり、ということだろうか。

「旦那様」
 カレンは振り向き立ち上がると、ゆっくりとレイモンドに近寄る。

「ここには、私たち以外誰もいない。名前を呼んで」
 手が触れられるくらい彼女が近づいてきたので、そっとその頬に触れた。

「レイ。お疲れではありませんか? どうぞ、お休みになってください」
 カレンがレイモンドの手に自分の手を添えてニッコリと笑う。

 重かった空気が軽くなった瞬間。彼女の言葉の意味をどうとらえたらいいかがわからない。
 レイモンドは上着を脱ぐと、カレンのベッドへと潜り込む。少し温もりが残っているのは、彼女が今までそこで寝ていたからだろう。

「あの、旦那様」
 カレンがおずおずと声をかけると、寝返りをうち背中を向ける。多分、これは名前で呼べ、という表れ。

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