望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
 ただ、目を見開いてしまったのは、今まで目にした他の動物たちよりもその怪我が酷かったから。
 母親が言うには、こういった酷い怪我の場合は何日かに分けて治癒をするらしい。一度に治癒を行うと、治癒をかけられた側の体力も治癒を書けた方の魔力も持たないから、とのこと。

「あなたが、やってみなさい」

 母親に言われ、カレンがその豹の怪我を魔法で治してみることにした。それは皮が剥がれ、肉がえぐられ、顔の半分がつぶれていた。よくここまで来ることができたものだ。

「頑張ったわね」
 カレンはそっとそれを優しく抱きしめた。これほどの怪我を負わせるような人間を、どこか憎むようになったのもこの時期。いや、戦争という無駄な争いを始めた頃から、かもしれない。

 カレンはゆっくりと時間をかけて、その黒豹の治癒を行った。

 まずはつぶれた頭を。次に、えぐられた肉を。そうやってゆっくりと治癒魔法をかけて。だが、一度に痛みを取り除くこともできず、それは苦痛で顔を歪ませることもあった。カレンは、優しくそれを撫でることしかできなかった――。
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