舞台の上で輝いて
「えっ!」

完全に時間が止まった。
呼吸する事も忘れたかも。
バレエ団のスタジオ入口の掲示板に張り出された1枚の紙。

次回の白鳥の湖公演出演者
王子ジークフリート  結城 拓也
白鳥 オデット    橘  香織


王子が結城さんなのは分かる。
いやいや、当然である。
この東条バレエカンパニーを代表する天才プリンシパルダンサーなんだから。
どの公演でも主演を務めているし。

おかしいのは、オデット。
まだ入団して3年、しかもアーティストの私、橘香織の名前が書いてある。

プリンシパル、ソリスト、アーティスト
バレエ団での階級だ。その階級の間には目に見えない大きな壁がある。
主演を務めるのは当然プリンシパルダンサーに決まってる。

プリンシパルの山本麗奈さんが笑顔でこちらにやってきた。

「大抜擢ね。頑張ってね。」
「…はい。」

親友の同じアーティストの岩井ゆりは、周りを気にしながらも小さな声で
「おめでとう。」
「…ありがとう。」

でも、他の団員はただ黙って貼り紙を見ている。

< 1 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop