シンガポール・スリング
「上村にそんな顔を見せるんじゃない」
??
未希子はレンの真剣な顔に首をかしげながら、とりあえず頷いた。
「まぁ、未希子はわかっていないところが問題なんだが」
「・・・・」
「何とか上村を来させない方法があればいいんだが」
「それは無理ですよね。大樹先生、レンさんにちょっかい出すこと好きみたいですし」
「・・・・」
「仲がいいんだなぁって思いました」
「妬けた?」
「?!」
レンは甘えるように鼻を未希子の首元に押し付けた。未希子はびっくりしながらもそっとレンの髪に触れた。
「上村と二人で話しているのを見るのが嫌だ」
「・・・私と話すために来ているんじゃなくて、レンさんにかまってもらいたいんだと思いますよ」
はーっとレンはため息をついて、未希子の肩に額をのせる。
どうしてこうもとんちんかんな返答をするんだろうか。そして、どうして未希子からはこんなに甘い匂いがするのだろうか。
大きく深呼吸すると鼻腔を刺激する未希子の香り。
レンは体の位置をずらして、未希子からゼリーとスプーンを奪うと急いで食べきり、未希子を支えながらゆっくりとベッドに寝かせた。
「父と母が会いたいと言っている。元気になったら会ってくれるか?」
「レンさんのお父様とお母様に?」
「ああ、家に帰らずここに住んでいるものだから気になっているんだろうけど、何よりも未希子に会わせてくれとうるさくて。今は未希子の健康が第一だから来ないように言っているんだが」
「・・・・・」
「無理なら別にいい。今すぐじゃなくていいんだ」
全精神を集中させどんな小さな変化も逃さないようにしているレンは、未希子の顔に緊張が走るのを瞬時に見てとり、すぐさま落ち着かせるように頭を撫でた。
「未希子が嫌なことはしたくない」
「嫌なことではないです」
「・・・別に今すぐじゃなくていいんだ」
「体調がよくなってからでいいなら・・・」
「じゃあ、退院した後に予定を立てておく。絶対に嫌なことをさせないし、言わせないから」
レンは横たわる小さな体をしっかりと抱きしめた。両親と会ってくれると聞いて、レンはうれしさで心が満たされていくのを感じた。
未希子の一言で自分の感情が変化していく。
今まで経験したことのないいろいろな感情が沸き起こるたびに、レンは戸惑いを覚えずにはいられなかった。