シンガポール・スリング
「もちろんです!もう本当にぐったりしてしまうので。レンさんは?何か嫌いな食べ物とかありますか?」
「特には・・・ないかな。あ、お腹を下すとかはないけど、あんまり好きじゃない食べ物はブドウかな」
「葡萄・・・ですか」
「小粒のブドウは特に。一つ一つチマチマ食べるだろ?時間の無駄な気がしてあまり好きじゃない」
「・・・そんな理由で嫌いな人、初めてみました」
そうか?まぁワインとかアイスみたいに加工されているのは好きだけど。レンは恥ずかしそうに目をそらすと、・・・そう言えばあの時のお弁当と突然話を変えてきた。
「お弁当のお礼、言ってなかったな。ありがとう」
「・・・・落としちゃったので、たぶん中身ぐちゃぐちゃになってましたよね」
「いや、全然。それにびっくりするぐらい美味しかった。あれ、全部作るの大変だったんじゃないか?」
「うーん。作るのは嫌いじゃないので。ただあれもこれも食べてほしいと思ったら、なんだかまとまりのないお弁当になっちゃいました」
「これからも・・・」
「え?」
「これからもまた作ってくれる?」
突然甘い声に変わったので、未希子は思わず赤面した。
急に甘い声で囁いてくる必要があるのだろうかと居心地が悪そうにしていると、係員が順番を告げたので、二人はミュージアムへと足を進めた。
明るい所から突然暗闇に入ったため、目が慣れず暗闇の中を恐る恐る進んでいたが、目が慣れてきたところで突然魚が横切っていき、未希子はわぁと声を上げた。
「レンさん!見てください!」
「きれいだな」
わぁ、こっちは竹藪ですよ!綺麗ですね・・・。壁にも床にもあらゆる動物が行きかい、異空間に迷い込んだような感覚に陥った。未希子はレンの手をぎゅっと握ってキラキラした眼で見上げる。彼女の表情がコロコロ変わり、レンは申し訳ないがデジタルアートよりも未希子を見ているほうがよっぽど楽しいと思っていた。
レンは時々携帯に目をやっては何か調べているようだったがしばらくして、行きたいところがあると言いだし、突然未希子を引っ張って歩き出した。
「え??ええっ??」
「大丈夫。しっかり手をつないでいるから」
レンは行先が解っているかのように、右へ左へと歩いていたが小さな表記の前で立ち止まった。