シンガポール・スリング
「??ここですか??」
レンは薄暗い中でにっこり笑うと、ちょっと待っててと断って表記の横に立っている係員と話をした。係員は携帯で何か話をした後、立て看板を「ただいま入場できません」という表記に変え、こちらへどうぞ、とレン達を案内した。
そこは何十ものランプがぶら下がっている幻想的な空間だった。周りは鏡でおおわれ、森の中に彷徨っているような感覚に陥った。
わぁ・・・・・
未希子は青白く光っているランプを見上げ、レンを見上げるとレンは立ち止まって未希子の頬をそっと撫でた。
「未希子ーーー」
名前を呟いたレンは、そのまま片膝をついて未希子を見上げた。
突然の行動に未希子はびっくりして、息を止めた。
「シンガポールでびしょ濡れになった未希子に出会ってから、なぜか惹かれていった。再会して同じ時間を過ごせば過ごすほど、未希子を好きになって・・・」
未希子は両手を唇に当て、震えだした。
「レンさん・・・なに・・・を・・・」
「何度も言うが、離れている間気が狂いそうだった」
?!
「自分でもどうしたらいいかわからないほど、未希子を愛している」
だから・・・
「もう絶対に傷つけないと約束するから、結婚してくれないか」
レンは不安そうな顔で、未希子を見上げている。
私も好きーーー。
そう言いたいのに言葉にならない。気づくと未希子は号泣していて、ただコクコクと頷いた。立ち上がりながら未希子の涙をぬぐい、それはOKだってこと?と確認する。
「私も・・・・レ、レンさんのことだけは諦められません」
泣きながら必死に言葉を紡ぎあげる未希子に我慢できずレンは力いっぱい抱きしめた。
「愛してる」
するとその言葉を待っていたかのように、青い光を放っていったランプが一つ、また一つとオレンジ色に変化していき、辺り一面が夕焼け色に変わっていった。
「わぁ・・・・」
視線を上げ、うっとりとその光景に目を凝らす。
未希子が腕の中でオレンジ色に染まっていくのを見つめる。
綺麗だな・・・
未希子に目を奪われたレンは自分の世界がぐらっと揺らいだのを感じた。
ポケットから赤いリングケースを取り出すと、片手で器用に箱を開け、もう一度片膝をついた。
未希子はレンの手にあるものに気づき、びっくりした表情で顔を上げた。
レンはそっと未希子の左手にキスしてから指輪をはめてあげ、自分が選んだ婚約指輪を付けた薬指をじっと見つめた。
オレンジ色の光を纏った満足げな表情のレンを見て、未希子の心臓がとくんと音を立てて鳴った。