不器用主人の心は娘のもの

彼女を寄せて

 夜、彼が『主人』の姿で娘のもとへ来ると、彼女はじっと主人を見つめてきた。

「…!」

 驚き彼も面の奥から彼女を見つめ返すが、怯えているのがすぐにでも分かった。

 しかし、怯えながら主人を見つめ返す彼女のその気持ちを知りたい。

 彼は何とか平静を装い、ベッドに座った彼女の両肩を抱く。

「…止めてくれと、乞うつもりか?」

「い、いいえ…」

 拒否するつもりは無いらしい。彼女はなおもこちらを見つめたまま。

(…彼女は…耐えようとしているのか…。何といじらしいことか…)

 彼は無意識のうちに、娘を見つめたまま片手をゆっくりと彼女の頬へ。
 驚いたように目を見開いたままの彼女の頬を手で包み、ゆっくりと自らの顔を近付けた。

 しかし、彼は止まる。

 自分は一体、彼女に何をしようとしたのだろう?


 彼は自分の感情を押し殺したまま彼女を奪った。
 せめて傷付けないよう、せめて泣くことの無いよう、なるべく優しくするつもりで。

 怯えのせいなのか必死に目をつぶり、自分を見ようとしない彼女。

 彼の心はまた満たされず空虚になった。
 どんなに優しくしようとも、彼女にとって自分は『冷酷な主人』なのだから。


 彼女が眠りに落ちると、彼は起こさぬようそっとその頬に触れた。

 温かい頬。
 来たばかりの頃よりも顔の艶が良くなった気がした。
 このまま屋敷にいて食事をしてくれれば、痩せ気味ですぐにも崩れそうだった身体もじきに良くなるかもしれない。

(元気に笑ってみてほしい…そのためにも、『あれ』は何としても…)

 彼は自分の身を整え彼女の寝姿を直してやると、そっと部屋を出ていった。
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