結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
『気にせず先に帰ってください』

 そう言うべきだとわかっているのに、あと一分、あと一秒だけ……と言い出せないうちに凛音は本当に眠ってしまった。

 夢を見た。温かな手と優しい唇。子どもの頃に憧れを抱いた王子さまからの素敵なキス、そんな甘やかな夢だった。


 スゥスゥと静かな寝息を立てはじめた凛音を見おろし、龍一は深く息を吐いた。

 早く眠ってくれという願いと、予定調和が崩れることを期待する気持ち。その間を幾度も往復した龍一の心は、すっかり疲れきっていた。

(馬鹿か――)

 彼女との間に建てた透明な壁を壊すことなど、絶対にあってはならない。

 その壁をよりいっそう強固なものにするために、彼女を今日同伴させたのだ。

(やっぱり、あの男が一番いいだろうな)

 同年代の似たような立場の男を並べてみると、やはり彼の有能さは際立っていた。自分の目に狂いはなかったことを確信する。

(これでいい。すべて、うまくいく)

 おかしな気を起こさぬうちにと、龍一は慌てて腰を浮かす。が、次の瞬間に龍一の手に温かいものが触れた。

 白く柔らかな凛音の手が龍一の指先をつかんで離さないのだ。

「りおーー」
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