最愛の日々にピリオドを、












「ご飯は、ちゃんと作れるようになってね」

「うわー、それはちょっとどうかわかんない」

「栄養不足で死なれたら困る」

「仕事でしんどくなっても、一人で絶対抱え込むなよ」

「はは、聞いてくれる人探さないと」

「探さなくても、呉羽の友達は聞いてくれるだろ」

「よく、わかってんじゃん」

「だろ」



キーケースから、鍵を外す。
最後まで借りていたスウェットから着替えて、よそに行くようなきれいな格好をして、ひどい顔を精いっぱい誤魔化したメイクで、玄関に立っている。
ジャージに似合わないショートブーツを履いて、顔を上げる。



「―――お互い婚期逃したら、そんときは攫うかも」

「はは、そのために、婚期逃してるかも」

「―――でも、一番、幸せになれよ」

「……そっちこそ、幸せにならないと、許さないんだから」

「はは、お互い様だわ」



最後まで、変わらずに。
もうふたりに残っているのはこれ以上ない笑顔だ。




「じゃあ、ね」

「おー、また」

「また、か」

「…………」

「……また、会えるといいな」

「……会えるだろ、どっかで」

「それまで連絡しないでね」

「おー、上等だわ、そっちもな」

「あたりまえよ」




どちらともなく、腕を伸ばして、背中に回す。
最後に抱きしめられたことを、これからもずっとそのぬくもりを、忘れないように。
これ以上名残惜しまないようにと、後悔する前に離れる。




扉が閉まる、最後の1秒まで。
私たちは最後まで、私たちのまま。





「―――バイバイ、夕雅」




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