孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「え? あ、はい。お疲れ様です……」


操は、彼が霧生君だとわからないながらも、同じ病院職員と受け取ったのだろう。
サッと立ち上がり、挨拶を返した。
ところが。


「霞も、お疲れ様」


彼が続けて、私に顔を向けるのを見て、


「『霞』!?」


ギョッと目を剥いた。
もちろん私も、突然現れた上に、操の前で平然と下の名前で呼ばれて焦る。


「ちょっ、きりゅ……」


横顔に彼女の視線をビシバシと感じ、彼を咎めようとしてハッと言葉をのむ。
操が霧生君だと気付いてないなら、ここは名前を出さない方がいい?と、とっさに判断したせいだ。


「……病院で、その呼び方は」


コソッと小声で嗜めると、彼も状況を理解してくれたのか、「ああ」と顎を撫でる。


「ごめん。日本じゃ、同僚同士ファーストネームでは呼び合わないか」


まるで『今知った』と言うようなしみじみとした顔つきだけど、生粋のパリっ子ではないくせに白々しい。
私が無言でじっとりと睨むと、彼はひょいと肩を竦めた。


「僕も、ちょっと用があって来たから。君が疲れてなかったら、一緒に初詣でもどうかなって、誘いに来たんだけど」


はにかんだ笑顔が、オンコール明けでしょぼしょぼした私の目には、爽やかすぎて眩しい。
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