孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「あ、ありがとう」


私は何故だかほんの少し怯みながら、ありがたくペットボトルの蓋を開けた。
なにも考えずに一気に三口ほど飲んで、ふうと息をつき、


「! これ、霧生君、自分用に買ったんじゃない?」


はたと思い至って探りかけると、霧生君はふっと目を細めた。


「別に、そのくらい」

「ごめん! 新しいの買って返す」


幸い、参道にはたくさんの出店がある。
キョロキョロと見回す私を、彼は「いいよ」と短い呟きで制す。


「喉が渇いたら、僕も飲ませてもらうから」


なんでもないことのようにさらりと言われ、私は思わず返事に窮した。
それじゃ間接キスになるじゃないと、瞬時に思考が働いてしまったせいだ。


「そ、そう」


すぐに気を取り直したものの、妙にドギマギする。
間接キスに慌てるなんて、中学生みたいだ。
そりゃまあ、ただの同僚同士でやることでもないけど、私たちは『ただの』とも言えない。


今はまだ、『夫婦』のまま。
とは言え、恋人同士だったこともない。
なんとも宙ぶらりんな関係だけど……。
霧生君が堂々しているのに、私ばかりが気にしすぎで、きまり悪い。


人の流れに任せ、伏し目がちに進むにつれ、拝殿の前に辿り着いた。
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