孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「シたいよ。僕でも、君限定で性欲が働くようだから」


僕が即答すると、大胆に仕掛けてきたわりに、ボッと音が出そうな勢いで顔を茹らせた。
目を泳がせ、モゴモゴと口ごもるのを見て、僕は形勢逆転を確信する。
彼女の腕を掴み、自分から離させた。
意識してゆっくり上体を起こし、まだ腹の上に乗っている彼女と目線を合わせる。


「でも、今の僕じゃ役不足だ。霞の理想の男になるまで、もう少し待って」


コツンと額をぶつけて上目遣いに見据えると、霞は真っ赤な顔で口をパクパクさせた。
そして、がっくりとこうべを垂れる。


「違う……私は、霧生君に変わってほしいなんて……」


ボソボソと聞き取りにくい声で呟く彼女の下から抜け出し、僕はソファに座り直した。
霞は先ほどまでと同じように、ソファの上で膝を抱え、そこに額を預けて顔を伏せる。


僕は無意識にホッと息を吐いてから、彼女を見遣った。
視線を感じているのか、霞はやけに小さく肩を縮こめ……。


「……ねえ、霧生君。この結婚継続って、霧生君の秘密を一生共有するため……私は、秘密の墓守みたいなもんだよね」

「は?」


たどたどしく問われ、僕は真剣に目が点になりそうだった。
心中といい、復讐といい――。
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