孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「麻酔再開。BIS値60まで下げます」


セラピストたちが退室すると、剣崎先生が酒巻さんを傾眠状態に誘導するため、輸液コントロールに入る。
霧生君と一色先生は、マッピングを元に、腫瘍切除範囲の検討を始めた。


「腫瘍後部が、ギリギリ境界にかかってますね。再発予防のためにも、できる限り全摘出したいところですが」


霧生君が難しい顔をして、顎を摩る。
それには、一色先生も同意を示した。


「取れば、軽度ではあるが、失語症を発症する可能性がある。残して放射線治療で抑え込むか、二択だな」

「…………」


霧生君も、無言で頷いた。
かなり悩ましい決断になりそうだけど、酒巻さんの頭部は開いたまま。
判断を長引かせるわけにはいかない。


「酒巻さんは七十一歳。人生百年のこの時代、まだまだ若い。オペをしておきながら、爆弾が残ったまま生きていくか。言語のリハビリは必要だけど、再発の不安なく老後を過ごすか……」

「執刀医の判断はどっちだ」


腕組みをして問われた霧生君が、顔を歪める。


「……難しいよね。酒巻さん、大学教授でしょ。万が一講義できなくなったら……下手したら医療訴訟に発展しかねない」


二人から少し離れて立ち尽くす私に、操がそそっと寄ってきて耳打ちした。
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