孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
二人の足音が耳に届いたのか、酒巻さんが目蓋を持ち上げた。
今度は視線を揺らすことなく、まっすぐ霧生君に注がれる。
「わかりました。先生、お願い、します」
噛みしめるような承諾の返事を受け、霧生君がホッとした表情を浮かべて胸を張った。
「ありがとうございます」
早口で謝辞を述べ、こちらに歩いてくる一色先生たちに、酒巻さんの承諾を伝えるかのように顔を向ける。
皆が大きく首を縦に振り、手術台を取り囲んだ。
酒巻さんの視線の正面に、言語聴覚士が立つ。
これからなにを始めるかわかっていても、とっさに話題が見つからないのか、
「酒巻さん。あの……」
呼びかけたまま言い淀んだ。
酒巻さんが目を閉じ、ゆっくりと唇を動かす。
「これ……知ってますか。井筒です。古典で習いませんでした、か。筒井筒……」
言語聴覚士だけじゃなく、霧生君も一色先生も剣崎先生も、そして私も、その声に耳を澄ましていた。
次の瞬間、皆が揃って、オペ室の隅に置かれた古いCDデッキに目を向け――。
「……始めましょうか」
霧生君が、柔らかく眉尻を下げた。
「はいっ」
私はキビキビと返事をして、器械出しテーブルのそばに戻った。
一色先生が、助手の位置に立つ。
酒巻さんと言語聴覚士は、オペ室に響く能楽を話題に会話を続けている。
霧生君が、再びマイクロモニターに目を凝らし……。
「メスください」
酒巻さんの声を聞きながら、腫瘍摘出を開始した。
今度は視線を揺らすことなく、まっすぐ霧生君に注がれる。
「わかりました。先生、お願い、します」
噛みしめるような承諾の返事を受け、霧生君がホッとした表情を浮かべて胸を張った。
「ありがとうございます」
早口で謝辞を述べ、こちらに歩いてくる一色先生たちに、酒巻さんの承諾を伝えるかのように顔を向ける。
皆が大きく首を縦に振り、手術台を取り囲んだ。
酒巻さんの視線の正面に、言語聴覚士が立つ。
これからなにを始めるかわかっていても、とっさに話題が見つからないのか、
「酒巻さん。あの……」
呼びかけたまま言い淀んだ。
酒巻さんが目を閉じ、ゆっくりと唇を動かす。
「これ……知ってますか。井筒です。古典で習いませんでした、か。筒井筒……」
言語聴覚士だけじゃなく、霧生君も一色先生も剣崎先生も、そして私も、その声に耳を澄ましていた。
次の瞬間、皆が揃って、オペ室の隅に置かれた古いCDデッキに目を向け――。
「……始めましょうか」
霧生君が、柔らかく眉尻を下げた。
「はいっ」
私はキビキビと返事をして、器械出しテーブルのそばに戻った。
一色先生が、助手の位置に立つ。
酒巻さんと言語聴覚士は、オペ室に響く能楽を話題に会話を続けている。
霧生君が、再びマイクロモニターに目を凝らし……。
「メスください」
酒巻さんの声を聞きながら、腫瘍摘出を開始した。