孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「うん。頑張ってね」


私はニコッと笑って……意識して、左手を振ってみせた。
先ほどとは違い、薬指のリングが天井の明かりを受けてギラッと光る。
彼にも私の意図が伝わったようだ。
ほんのちょっと虚を衝かれた顔をして、すぐにふっと目を細めた。


「うん。霞も」


私と同じように、左手を掲げて応えてくれる。
彼の薬指で輝く、お揃いのリングの光――。
颯汰が先に廊下を歩き出した。
私はその背を目で追って、一度ふうと息をついてから、逆方向に足を踏み出す。
と、その時。


「霞」


名前を呼ばれて、振り返った。


「今日、一緒に帰ろう」


颯汰はそれだけ言って、私の返事を待たずに左手を振った。
今度は立ち止まらずに先を進む彼の背中が、見えなくなるまで見送って――。


「……よし、頑張ろっと」


私は自分を鼓舞するように声を弾ませ、くるっと方向転換した。
私と颯汰は同級生で、常に同じ時代を生きてきた。
それなのに、今の彼は私と比較の対象にもならないほど立派だ。
同じ医療従事者なのに、私の手じゃ届かないくらい先を、突き進んでいく。


今は、手が届かなくても。
五十年後も一番そばにいて、寄り添い、支え合える、素敵な夫婦になりたい――。


私は、私の前に続く、長い長い道をジッと見据える。
大きく胸を張って、歩き出した。
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