孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「おはようございます」


私は同じ挨拶を返しながら目線だけ上げ、鏡越しに声の主を捜した。
二番のロッカーの前に、長身の男性の姿を見つけた。
彼は着ていた白衣を脱ぎ、ブルーのスクラブ姿になったところだった。
貴重品や上着などを一時的に保管しておくためのロッカーは、一番が執刀医、二番は第一助手と決まっている。


「……?」


私は無意識に首を傾げた。
執刀医と共に、病棟に患者を術前訪問する外回りと違って、器械出しはオペ前から他のスタッフと関わることがほとんどない。
極端な場合、オペが始まって初めて、第一助手や技師と顔を合わせることもある。
でも、入職以来八年間も手術部にいれば、各科の外科医の顔と名前は全員記憶している。
この人は――?


朝、寝癖を直す時間がなかったのか、やや長めの黒髪は、ところどころ跳ねている。
痩せ型だけど、肩幅は広い。
スクラブの上からでも確認できる肩甲骨の浮き具合を見れば、かなり引き締まった身体つきだとわかる。
声だけじゃなく、後ろ姿も見慣れない。
私は手洗いを終えて、身体ごと彼に向き直った。


「あの……二番は、第一助手のロッカーです」
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