孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
この人は誰だろう?と思いながら、遠慮がちに声をかけてみた。
すると、男性はピタリと動きを止め、


「僕は、第四手術室のオペに入る第一助手です」


ゆっくりこちらを振り返った。
抑揚のない淡々とした口調が、私の鼓膜を刺激した。
この声、どこかで……と記憶が揺さぶられるが早いか、男性とバチッと目が合い……。


「っ……!」


私は、ひゅっと音を鳴らして息をのんだ。
反射的に男性に背を向け、「そうですか」とだけ返す。
足を竦ませ、ドッドッと強く打ち出す胸に手を当てた。


――昨夜の人だ……。
目元にかかる長い前髪。
そして、顔半分を占める大きな眼鏡……間違いない。
そう簡単には会わないと思ってたのに、まさかここで……!?


激しく動揺して、私は急いで準備室からオペ室に入った。
ドアを背で押して閉め、紺色のスクラブの胸元をぎゅっと握りしめる。


――って言うか、第一助手?
脳外科医だったの……!?


誰? 誰?と混乱しているうちに、他のスタッフも集まってきてしまった。
病棟から、患者も運ばれてくる。
私は麻酔科医が麻酔導入を始める介助をしながら、速い心拍を抑えようと地味に深呼吸を続けた。
< 30 / 211 >

この作品をシェア

pagetop