孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
やがて、今オペの執刀医、脳外科教授と、第一助手が入室した。
術前タイムアウトが始まっても、第一助手の方に顔を向けられない。
そして――。


「では、開頭に入ります。ドリル」


皮膚切開を終えた教授が、隣に立つ私に告げた。


「剥離子ください」


向かい側から、第一助手の声が続く。
それは、他の誰でもなく、私に向けられたもの……。
私はドリルを手に、思い切って第一助手に目線を上げて、


「……え?」


一瞬、私の時間だけ止まった、そんな感覚に囚われた。
――昨夜の人じゃなかった。
髪はすべてキャップで覆れていて、すっきりとした額が露わになっている。
目視できるのは、キャップとマスクの間に覗く目元だけ……今、大きな眼鏡はしていない。


形のいい太い眉はなだらかに上がり気味で、切れ長の目は端整で涼やかだ。
鼻や口元が見えなくても、かなりのイケメンと想像できる。
昨夜の男性の面影もない。


――だけど。
準備室で『第一助手』と名乗ったのは、確かに昨夜の男性だった。
それに……昨夜私は、あの男性の素顔は見ていない。
< 31 / 211 >

この作品をシェア

pagetop