孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「……?」


ドリルを待って、教授が私に顔を向けた。
第一助手も、目を上げる。
上目遣いの彼と、真っ向から視線がぶつかり――。


「も、申し訳ありません」


私はハッと我に返り、慌てて二人に器具を渡した。
ドリルを受け取った教授が、やや訝しげに私を一瞥して、


「集中して頼むよ、茅萱さん」


チクリとお小言を言った。
私の「はい」という返事は、ドリルの稼働音に掻き消された。
第一助手も、私から骨膜剥離子を受け取ると、


「…………」


無言で目を伏せ、術野を注視する。
――そう言えば、脳外科に新しい医師が来ると聞いていた。
教授がその腕に惚れ込み、直々に呼び寄せたという天才。


この小脳手術、予定表には、別の医師が第一助手として記載されていた。
教授のご指名で、急遽交替したのだろう。
つまり、きっとこの彼がその天才だ。
それなら、来日して間もないはず。
私が彼を知らなくても、当たり前。


だから……まさか本当に、昨夜の人……?
自分の心臓の音がうるさすぎて、体内で反響して鼓膜に届く。
私は、術者二人より早く、額に汗が滲むのを感じた。
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