孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
七時間という長丁場のオペも終わりに近付き、脳外科教授は最後の縫合を第一助手に委ね、先に退室していった。


「4-0縫合糸ください」


第一助手は教授に替わって私の隣に立ち、縫合を終えると、「ふう」と小さな吐息を漏らした。
少し糸が残った角針をトレーに戻す。


「後、お任せしていいですか」

「はい。お疲れ様でした」


創部保護を私に任せ、第一助手は手術台を離れた。
麻酔科医と一言二言交わし、外回り看護師に申し送り事項を伝える彼を気にしながら、創部にガーゼを当てようとして、思わず目を瞠った。


――なんて美しい縫合痕。
縫合の手技もとても丁寧で鮮やかだったし、縫い目の周りの皮膚にもほとんど負荷がかかっていない。


私は無意識にゴクッと喉を鳴らした。
――今の天才、本当に昨夜の危険人物!?
私は創部保護の処置を終え、急いでスタッフ準備室に飛び込んだ。
そこに、第一助手の姿はない。


手早くガウンを脱いで手洗いを済ませ、彼を捜して準備室から廊下に出た。
小走りで角を曲がると、エレベーターホールに続く長い廊下で、汗が滲むスクラブの背中に追いつくことができた。


「待って。せ、先生、待ってください!」
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