孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
霧生先生は、吹き出して笑った。
眼鏡を外し、手の甲で目尻を拭う仕草までしてみせる。


「あ……」


――笑った。
どうしてだか、胸がきゅんと疼いた。
その理由を自分の中に探し……彼が笑うのを見たのは、中学時代も通して初めてだからだと気付く。


「霧生……君、って。そんな風に笑うん、だ、ね」


呼び方と語尾を意識しすぎて片言になる私に、霧生先生……君が、虚を衝かれたような顔をした。


「あ、いきなりごめんなさい。でも、その……中学の時もさ。霧生君、ずっと無表情で。学校でもつまらなそうな顔してたから……」


慌てて取り繕ってぎこちなく笑う私から、ふっと目を伏せる。


「それで君は、いつも独りでいた僕に話しかけてくれた。『友達作ろうよ。いきなりみんなの中に入れないなら、まず私と友達になろう』」

「あ……。覚えてるの?」


それは確かに、私があの頃の霧生君にかけた言葉。
懐かしさと、ついでに恥ずかしさも湧き上がってきて、私はポリッとこめかみを掻いた。


「霧生君、最初、私のこと胡散臭そうに見てたよね。……ああ、私、霧生君にもお節介なことしてた」


言いながら、自分が痛くて口の端が引き攣った。
霧生君は、ほんの少し目を細めてクスッと笑い……。


「君はお人好しで……優しくて、残酷だ」


低いくぐもった声を拾って、私はそっと顔を上げた。
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