孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
霧生君は自分の指先をペロッと舐めながら、首を傾ける。
私は激しく跳ね上がる心臓に気を取られながら、口を動かし……。


「! 美味しい」

「それはよかった」


霧生君は満足げに目を細め、チキンをお皿に盛り付けてから、茹で上がったファルファッレを、ザアッとざるに移した。
シンクに、真っ白な湯気が立ち込める。
空になった鍋にオリーブオイルを垂らし、しめじと舞茸、エリンギを炒め始めた。


「茅萱さんは、その皿リビングに持っていって、テーブルで待ってて」


私に指示をしながら、トマトの缶を豪快に鍋に投入する。


「う、うん」


私は何故か火照った頬に、ヒラヒラと手を翳して無意味に風を送りながら、チキンのお皿を手に取った。
そそくさとキッチンを出ようとして、そっと彼を振り返る。


彼の手元、鍋の中で、トマトがクツクツと音を立てる。
香ばしいチキンに続き、トマトの酸味の匂いがキッチンに広がり、私は唾を飲んでしまった。


それも聞こえたのか、霧生君がふと目線を上げる。
意図せず、バチッと視線がぶつかり――。


「……っく」


わざとらしく顔を背け、肩を揺らすのを見て、私はあたふたとキッチンから逃げ出した。
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