孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
霧生君は自分の足元に目を落としてから、気を取り直した様子で踵を返す。
ロッカーから取り出した白衣に袖を通し、ポケットから眼鏡を摘まみ出して出て行こうとするのを見て、
「霧生先生!」
私は手洗いを終えて、小走りで彼を追った。
霧生君は、ドアに手をかけたところで止まってくれる。
だけど振り向かず、なにも言わない。
こちらに向けられた背中から、私への警戒心がビンビンに張り巡らされている。
「あの……帰ってきて」
私はスクラブの裾を両手で引っ張り下げながら、思い切って切り出した。
「あそこは霧生君の家だから、私がいるから帰って来れないなら……」
「茅萱さんのせいじゃない」
霧生君が私を先回りして阻み、振り返った。
ドアに背を預けて、長い前髪をくしゃっと握りしめる。
「なにからなにまで無様で……自分を君の前から消したいだけだ」
こうして私と向き合っていることすら恥と言うように、顔を背けてしまう。
私は、きゅっと唇を結んだ。
やっぱり……私の予想通りなんだろう。
それなら、慰めもフォローも間違っている。
覚えてないフリが通用しない今、どう出るのが正解か、まだ自分でも答えを見出せていないけれど……。
「霧生君が帰ってきてくれなきゃ、契約満了できないじゃない」
私は身体の脇に垂らした両手を握って、自分を鼓舞するように声を張った。
ロッカーから取り出した白衣に袖を通し、ポケットから眼鏡を摘まみ出して出て行こうとするのを見て、
「霧生先生!」
私は手洗いを終えて、小走りで彼を追った。
霧生君は、ドアに手をかけたところで止まってくれる。
だけど振り向かず、なにも言わない。
こちらに向けられた背中から、私への警戒心がビンビンに張り巡らされている。
「あの……帰ってきて」
私はスクラブの裾を両手で引っ張り下げながら、思い切って切り出した。
「あそこは霧生君の家だから、私がいるから帰って来れないなら……」
「茅萱さんのせいじゃない」
霧生君が私を先回りして阻み、振り返った。
ドアに背を預けて、長い前髪をくしゃっと握りしめる。
「なにからなにまで無様で……自分を君の前から消したいだけだ」
こうして私と向き合っていることすら恥と言うように、顔を背けてしまう。
私は、きゅっと唇を結んだ。
やっぱり……私の予想通りなんだろう。
それなら、慰めもフォローも間違っている。
覚えてないフリが通用しない今、どう出るのが正解か、まだ自分でも答えを見出せていないけれど……。
「霧生君が帰ってきてくれなきゃ、契約満了できないじゃない」
私は身体の脇に垂らした両手を握って、自分を鼓舞するように声を張った。