婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「蛍、智明さん帰っちゃったわよ」

「うん⋯大丈夫」

「ちょっと部屋から出ておいで。気分転換にドライブでも行きましょう」

「夜遅いし、事故ったら大変だから大丈夫。私もう寝るね、おやすみ」

「蛍、お父さんとお母さんは味方だからな。何かあったらちゃんと相談しなさい」

「智明から話聞いてないの?」

「もちろん聞いたわよ。智明さん、自分のせいで蛍を傷つけてしまったって言ってたわよ」

「智明が悪いわけじゃないから⋯智明のこと責めたりしないでね」

「もちろん、責めたりなんかしてないわよ。それに、蛍からもきちんと話聞きたいの。だから、一度部屋から出てきてくれないかな?」

扉の向こう側で私にそう言うお母さんの声はすごく弱々しくて、私のことを心配してくれているのがすごく伝わってくる。

「お母さん⋯お父さんも、心配かけてごめんね」

「そんなの全然いいのよ。夕ご飯食べてないんでしょ? 先に何か食べなさい」

「今日の夕ご飯は母さんがミネストローネ作ってくれたぞ。蛍の大好物」

「ありがとね、お母さん」

「温め直すから、冷めないうちに食べるのよ」

「うん、分かった」

言われてみれば、今日は朝から何も食べていない。

自分のお腹がぐーっと鳴るのを聞いて、少し微笑んだ。
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