婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
智明 side

「蛍、本当にただ風邪気味なだけなの?」

「うん、智明がいない間、お腹出して寝たりしちゃってて」

「熱とかはない?」

「熱はないよ。風邪薬も飲んだし、すぐに良くなるよ」

「夕飯は作らなくていいから、もう休みな。ベッドまで連れてくから」

「ごめんね、ありがとう」

いつもだったら、申し訳ないとかそんなことさせられないとか言う蛍。

素直に頼まれることなんか今までなかったから、どこか違和感が拭いきれない。

蛍をベッドに運び、布団をかけて眠るまでそっと頭を撫でる。

さっき冷蔵庫の中を開けたら空っぽだったし、俺がいない間はまともな飯を食ってなかったってことなのだろう。

静かに寝息を立て始めた蛍を起こさないように部屋を出て、俺はあるものに目が止まった。

「妊娠⋯検査薬⋯?」

それは、確かに陽性反応を示していた。

「蛍、俺に隠しておくつもりだったな」

そう呟き、それをぎゅっと抱きしめる。

俺たちの子が、蛍の中に宿っている。

それがものすごく嬉しくて、すぐにでも蛍を起こして詳しいことを聞きたいものだ。

きっと、先程吐いていたのはつわりだろう。

体調がしんどかっただろうに、無理をさせてしまった。

蛍に無理をさせてしまったことを反省しながら、蛍が眠る部屋に向かった。
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