"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
「芸術もそうですが、既存の物に囚われ過ぎていると新しく芽生えた物の芽を摘んでしまうことにもなりかねない。絶えず進化して成長していくならば、受け入れる姿勢も大切だということです。既存の形がなくなるのは寂しいですが、より完全系に近付くならば、見届けたいと思いませんか?」

「そうですね……」

相変わらず、言い方がまどろっこしい。それに自分の心の内をさらけ出して、陶酔している姿は変わらない。

「萌実さんのご両親は、これから先、萌実さんの好きなことが出来るように望んでいます。今一度、将来と向き合って見るのも悪くないのでは?」

喫茶店の話から、そこに繋げる訳か。樋口さんは伝え方がまどろっこしいけれど、教育者として理にかなっている誘導の仕方だ。喫茶店に連れて来たのは、パフェを食べに来た訳ではない。本当の目的は、弁当屋と私の将来について考えさせる為。

「萌実さんが良ければ、私の元にお嫁に来てくれても構いませんからね。全力で愛し抜きますから」

そんなことをサラッと言いつつ、コーヒーを飲み干す樋口さん。これはヤバイ。樋口さんのコーヒーを飲み干す所作さえも格好良く見えて、胸の奥に愛の言葉が響く。樋口さんのことだから冗談で言っている訳ではない。真っ直ぐな気持ちが心に染み渡っていく。
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