"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
樋口さんの顔がまともに見れない。返事に困り果て、私もアイスカフェオレを一気に飲み干す。

あのボサボサ髪で眼鏡仕様のヨレヨレスーツな樋口さんだったならば、こんなにドキドキしないはずなのに……、身なりを整えたイケメン仕様な樋口さんには胸が高鳴りっぱなしだ。

「もしも、萌実さんが美大を再び目指したい時は是非、お力になりたいです。他の将来を考えているならば、そちらも応援したいですし、ご両親と三人だけで話し合いをするのは荷が重いならば私も同席します。とにかく、萌実さんにもご両親にも笑顔になって頂きたいですから、私がお手伝い出来ることがあるならば、ご協力させて下さい」

樋口さんはやはり、先生なのである。決して上辺だけで言っている訳ではないのが、ひしひしと感じとれる。

「今日、色々と聞かされたばかりでどうして良いのか正直な所、分かりません。けど、気持ちに変化があった場合はご相談させて下さい。樋口さんのような先生が居てくれて、生徒達も幸せですね」

私は笑顔を浮かべて、現段階での精一杯な気持ちを樋口さんに伝える。樋口さんはそんな私を見るなり、左手で顔を覆い隠す。

「萌実さんの笑顔、可愛すぎます。不意打ち、困ります……」

ボソボソと言いながら、窓の外を見ている。顔を覆い隠している左手からはみ出した部分の樋口さんの顔がみるみるうちに赤く染まる。
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