"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
「私が神経質なのか、それが当たり前かは分からないのですが、以前はシワのあるスーツも嫌いでしたし、Yシャツもシワがあると着る気が失せてしまう性格でした。その件以降、物事を緩やかに見れるようになりました。現在の学校に赴任して、萌実さんの絵画を目にした時に足を運んでみようと思ったのも、それがきっかけかもしれません。

今までの固い頭の私では、その行動はしなかったかなぁ……と思います」

樋口さん的にはピンチでもあったが、好機でもあったのか。確かに保護者受けする容姿も分からなくもない。私も今の樋口さんの容姿に惚れ惚れしているもの。

お酒を飲んでいるせいか、樋口さんはいつもよりも的をえて話をしている気がする。いつもならば、もう少し回りくどくて分かりずらいから。

「身なりを整える事も面倒な位に作品に没頭している間、楽しみだったのは萌実さんのご両親が作っている日替わり弁当か唐揚げ弁当でした。そして、萌実さんに会えるのも次第に楽しみになり、どっちがメインか分からなくなっちゃいましたぁ」

やたらとカルビをひっくり返しながら、サワーを一気に飲み干した樋口さん。口調も語尾が上がっていて面白い。樋口さんはお酒が弱そうだなぁ……。

「ご飯、食べても良いですか?」

「どうぞ。そうだ、玉子スープも飲みたいです。樋口さんはどうしますか?」

「お願いします」

お酒は一杯ずつにして、ご飯タイムにした。お酒は好きでも嫌いでもないので、沢山飲まなくても良いや。樋口さんと共にアイス烏龍茶をオーダーする。
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