溺愛ハンティング
 蓬莱の開花時期は本来もう少し後だ。それなのに契約している梅園の一角で、一本だけが蕾をつけていたのだ。

 開花調整すれば、ちょうどコンテストの日に満開になるかもしれない。

(若葉に見せたい!)

 その時はそれしか考えられず、いつになく浮かれて枝を切り、それに気を取られて下りる時にヘマをした。

 だが、それだけの価値はあったと思う。蓬莱はみごとに花開き、その花束を手にしていたおかげで、シルバーグレーのスーツはいっそう輝いて見えたのだから。

 けれども若葉はもうひとつしかけを用意していた。
 彼女に指示されたとおり、俺はランウエイを歩きながら、ひとつずつ上着のボタンを外していった。

「まあ!」
「きれい!」

 観客席から次々と歓声が上がった。

 俺はスーツの下に、鮮やかな花柄のシャツを着ていたのだ。
 まるで花畑にいるような黄色やオレンジやレモン色など、若葉が俺の肌に合うと言ってくれた色合いにも、清楚な蓬莱は負けていなかった。そしてよく映えていた。

 結果、優勝を手にしたのは俺たちだった。

「耕輔さん、ありがとう。本当にありがとう!」

 歓声と拍手の中、隣に立つ若葉が涙ぐみながら俺を見上げてきた。

「あなたのおかげで優勝できました」
「どういたしまして」

 俺は笑顔で頷き、ランウエイの床に跪く。

 とうとう来た。今度は俺がしかける番だ。
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