溺愛ハンティング
 あれというのは、『蓬莱』という品種の梅だ。
 八重咲きで、淡いピンクから白へと変わっていくさまが可憐で、俺の大好きな花だ。

 初めて若葉と話した日、かぐや姫の話題が出て、そういえば彼女は蓬莱みたいだと思った。

 小柄で華奢だから、かわいらしくて少女めいて見えるのに、凛としていて芯を感じさせる。

 出会ったのは俺の会社が主催するボタニカルツアーだが、とにかくやたら視線を感じて、しかもそれが圧を感じるくらい強かったので、なんだか気になってしかたなくなった。

 みんなから派手だと言われるが、実は俺は仕事人間だ。
 髪が金色っぽいのも、もともと明るめな髪質の上に強い日差しの中で作業してきたからで、これまでは女の子と遊ぶ時間もなかった。

 もし若葉でなかったら、忘れた鉢を届けるために追いかけたりしなかっただろうし、まして恋に落ちることもなかっただろう。

 結局、このコンテストのおかげで俺たちは仲よくなることができた。
 だから、できれば若葉に優勝してほしかった。

 そうすれば引っ込み思案の彼女ももっと本来の実力を出せる気がしたのだ。

 とはいえ、俺にできることなんてたかが知れている。
 そのうち枝切りのシーズンが始まってしまい、ずっと悶々としていたところで、あの花を見つけた。
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