因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 伊織が微笑ましいものを見るように目を細めるので、気恥ずかしくてゴホッと咳払いする。

 それからなにげなく食事の皿に視線を落とすと、俺は和華とのある会話を思い出した。

「和華は、太助の作っただし巻きが好きだったな」
「はい。私の前でも、だし巻きに関しては、太助の右に出る者はいないとおっしゃっていましたね」
「……悪阻でも食べられるだろうか」
「いいかもしれませんね、やわらかくて口当たりもいいし」

 よし。明後日和華の実家を訪れる際には、太助にだし巻きを作らせそれを差し入れにしよう。

 あとは、どうにかして自分の匂いを消さなければ、和華にキスもできやしない。

 明後日の計画を綿密に練りながらも、胸は浮かれて弾んでいる。

 しかし、それを伊織に気取られたくはないので、わざと荒っぽく握り飯にかぶりついて咀嚼し、口元が緩みそうになるのをごまかすのだった。 

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