因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
先ほど男性が走ってきた方向から、今度は料理人らしきコックコート姿の男性が息を切らせてやってきた。
フライパンとお玉を手にして、怒りと疲労からか、顔を真っ赤にしている。
しかし、男性の後ろ姿はすでに遠い彼方。今からでは追いつけそうになかった。
「……はぁ。交番に行くっきゃねえか」
がっくり肩を落とした料理人の男性が、私たちの前からすごすご去っていく。
私も太助くんも、かける言葉が見つからずに立ち尽くすことしかできなかった。
一部始終を見ていたのに、なんの力にもなれず心苦しい。
「悪い人がいるもんだね、食い逃げだなんて」
気を取り直して歩きだしつつ、私は呟いた。
太助くんは、ジッと前を見据えたままで言う。
「したくてしたわけじゃないと思いますけどね」
「えっ? まさか、食い逃げ犯の味方するの?」
さすがにその言い分は理解できず、私はまじまじと太助くんの顔を覗く。すると、彼は冷たい視線で私を一瞥した。
「恵まれた人間にはわかりませんよ。結婚するだけで簡単にお金が手に入るお気楽なあなたのような人には決して」