君しかいない
「申し訳ございません……あの、やはり着替えと飲み物をご用意いたします」

 ソファから立ち上がった成瀬は別室へ姿を消し、暫くして白いシャツとルームウェアを手渡してきた。
白シャツは成瀬がいつも着ているスーツ姿の際目にしているもので、ルームウェアは完全に私用のもの。

「こっち借りるね」

 選んだのはルームウェア。これは成瀬が部屋でだけ着ているものだろうし、わたしとしては成瀬が普段使っているルームウェアを着てみたかった。
 着替えている間、成瀬はキッチンに立ちお湯を沸かしている。

「えへへ。袖長い、ブカブカだぁ」

 フワッと成瀬の匂いがルームウェアから香り、わたしに優しく纏う。
 成瀬を再び見れば、以前目にしたことがあった時と同じく、耳を赤く染め少しボンヤリしているように見た。
 そっと近づき背後から成瀬の背中に抱きつく。

「真尋様?」
「真尋って呼んでよ」

 成瀬の腰に腕を回し、ギュッと抱きしめる。
 離れたくない。もっと一緒に居たい、そばに居たいし居て欲しい。
 この気持ち伝われ! と力を込めた手を成瀬の手に包まれた。
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