囚われの令嬢と仮面の男
 部屋へ戻る途中、妹のクリスティーナに声を掛けられた。沈んだ気持ちのまま「ええ」と返事をすると、妹は私の様子から察し、「そんな急には無理よね」と悲しそうに目を伏せた。

「ねぇ、クリス。お母様は?」

「礼拝堂よ。今日も姉様を想って祈りを捧げているわ」

「……そう」

 どこか複雑な心境だった。私の犯人(かれ)に対する気持ちは純粋な恋心なのだ。祈りなどなんの意味もない。

「お父様がおっしゃるように今は心の休養が必要なんだわ。私も姉様が元気になることを祈ってるから」

「ありがとう」

 妹もお母様も、私に憐憫の情を向け、どこか腫れ物に触るような対応をしていた。

 誘拐犯に囚われながら生き抜くには、彼に好意的な感情を持つしかなかったーーマリーンはそんな自己催眠をかけてしまうほどの恐怖を味わった、そう誤解されていた。

 エイブラムへの気持ちは催眠なんかじゃない。彼女たちの誤解を解きたい気持ちはあったが、まずは彼を出してもらうのが先だ。

 お父様は彼をいつまで閉じ込めるつもりかしら。私と同じ目にって言っていたから十数日? それで本当に出してくれる?
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