囚われの令嬢と仮面の男
 そう考えたところで、ううん、と首を振った。そんな悠長なことは言っていられない。

 彼は男爵家の人間だ。オークランド男爵に息子が監禁されていることを知られたら、大変な事態になる。私の恋心や縁談どころではなくなる。

 なんとしてでも、彼を出してもらわないと。けど、どうやって?

 考えは堂々巡りだった。ふたりの侍女に見張られている今、どうやってこれをやり遂げればいいのだろう。

 考えに考え抜いた結果、就寝時のベッドのなかで妙案がひらめいた。そのきっかけとなったのが、夕食の席で聞いたお父様の話だ。

 家族そろっての食卓で、お父様が明日の予定を私たちに告げた。

「明日は母さんと一緒に南ウェールズまで行ってくる。レスター侯爵の屋敷に従事する医者がかなりの腕利きだそうでな。マリーンの現状を話して薬を調合してもらうつもりだ」

 私をはじめ、妹や弟もピタリと手を止めてお父様とお母様を見つめた。

 レスター侯爵の屋敷ということは、お母様の生家であるラッセル家だ。ここイングランドの西部から鉄道を使ってもかなりの時間が掛かる。

「じゃあ……戻りは夜になるということですか?」
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