囚われの令嬢と仮面の男
 私が抱いた疑問をそっくりそのまま、弟のアレックスが質問した。

「そうだな。久々の訪問となるうえ挨拶も兼ねるとそのぐらいにはなる」

 わかりました、とそれぞれが返事をし、食事を再開した。

 今の私に薬など必要なかったが、お父様が長時間屋敷をあけるというのは好都合だった。

 翌朝、すでにお父様たちが発ったのを確認し、私は昨夜にひらめいた妙案を侍女たちに披露した。

「ば、薔薇風呂、ですか?」

「ええ」

 朝食のあと部屋へと戻り、侍女たちが用意した新しい帽子を試しながら鏡越しに言った。

「薔薇の花を百本ほど用意してくれる? 今夜はどうしてもそのお風呂に入りたいの」

「……はぁ。しかしお嬢様、さすがに百本ともなるとこの辺りの行商では……」

「平気よ。馬車と鉄道で往復三時間はかかるけれど、有名な薔薇園があるじゃない。今からふたりで行って、手に入れてきて欲しいの」

 お父様が屋敷をあけた今日、私は侍女たちに無理難題の買い物を頼んで、日中の監視を(まぬが)れようと考えていた。

「ですがお嬢様……」と左に立ったスーザンが難色を示した。
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