囚われの令嬢と仮面の男
「私どもは旦那様よりお嬢様のお世話を任されています。さすがにふたりしてお側を離れるわけには……」

「私なら大丈夫よ。お父様がいらっしゃらない代わりに今日は弟のアレックスがいるもの。彼の侍従のヴァージルに世話を頼むわ」

「しかしお嬢様」

「考えてもみなさいよ、百本の薔薇よ? ひとりで行って持ち帰れる量じゃないわ。それにお父様とお母様は夜まで帰って来ないんだし、バレる心配もない。そうでしょう?」

「……はぁ」

 侍女たちは私の側から離れることを散々渋っていたが、あらかじめ朝食の席でアレックスを通して侍従に頼み込んでいたため、彼女たちは私の我儘をきく羽目になった。

「ありがとう、アレックス。助かったわ」

 玄関(エントランス)ホールで侍女たちを見送り、侍従とともに側にいた弟に目を向けた。五歳年下の弟は、昨年私の背を追い越し、どこか大人びた雰囲気があった。

「……まぁ。四六時中見張られてちゃあ、心の休養など取れないですからね」

 思い切った行動に出た私を、呆れながらも弟が同意してくれる。

 大理石でできた階段に足を掛ける弟とは別に、私はホールを直進した。絵画や彫像が飾られた画廊に差し掛かり、弟の声が背中に響いた。

「姉さん! 部屋へ戻らないんですか?」
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